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枕草子　一〇二段

中納言まゐり給ひて

【本文】

　中納言まゐり給ひて、御扇たてまつらせ給ふに、「隆家こそいみじき骨は得（え）て侍れ。それを張らせて、まゐらせむとするに、おぼろけの紙はえ張るまじければ、もとめ侍るなり」と申し給ふ。「いかやうにかある」と問ひ聞こえさせ給へば、「すべていみじう侍り。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり』となん人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ」と、言（こと）たかくのたまへば、「さては、扇のにはあらで、海月（くらげ）のななり」と聞こゆれば、「これ隆家が言にしてむ」とて、笑ひ給ふ。かやうの事こそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「一つなおとしそ」と言へば、いかがはせん。

【現代語訳】

　中納言殿が（中宮様のもとに）参上なさって、御扇を献上なさるときに、「私、隆家はすばらしい（扇の）骨を手に入れました。それに紙を張らせて（中宮様に）さしあげようと思いましたが、並みの紙は（骨と不つりあいで）張ることが（できそうもないので、骨にふさわしい紙を）探しているのです」と申し上げなさる。「（それは）どのよう（な骨）であるか」と中宮様が尋ね申しあげなさると、「すべてがすばらしゅうございます。『まったくまだ見たこともない骨のようすだ』と人も申します。ほんとうにこれほどの骨は見たことがありません」と大声でおっしゃるので、私が「それでは、（それは）扇の骨ではなくて、くらげの骨であるようです」と申し上げると、「これは私隆家の（言った）言葉にしてしまおう」と言って、中納言殿はお笑いになる。このようなこと（＝こんな自慢話めいたこと）は、きっと聞き苦しいことの中に入れるべきだが、「一つも（書き）落とすな」と人も言うので、どうしようもない。

【品詞分解】

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